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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)51号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実及び本願発明の要旨が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由(3)について検討する。

1 成立に争いのない甲第二号証の一ないし三によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、まずその冒頭で、土質に応じて勾配を定めて土工的に切盛した土工法面の土壌は切土、盛土を問わずほとんどが未耕土であり、このような土工法面の地表部の崩壊流失を防止するため地表部に芝その他の草生を生育させる緑化手法がしばしば採られるが、「この法面の草生を充分に生育、増殖させて所期の緑化効果を得るためには、この草生に対して適切な肥料の施用が必要となる。」(甲第二号証の二、全文補正明細書二頁六ないし八行)ことを説明し、次いで、この土工法面の草生への施肥における問題点を、「法面では平地農業と同手法で肥料を施したとしても雨水或いは注水の自然流下と共に肥効成分が下流へ移動し、流亡することが激しく、肥料の浪費が著しい。また急しゆん地などでは殊に法面全面に施肥する作業は労力を要し、経済的ではない。このように土工法面の草生への施肥は現在までのところ幾多の技術的経済的困難を伴うものとされていたのである。」(同二頁九ないし一六行)と指摘した上、本願発明の依つて立つ技術的思想を、「本発明はこのように困難が多いとされている土工法面の草生への施肥方法に関し、法面に注がれる水がその傾斜のため、又山のカツト面などのものにあつては地下の母岩層などのために、地下に浸透することが少なく、地表面を急速に流下し、それに伴つて肥効成分も移動、流亡し易いという一見、従来の施肥手法では悪条件と考えられる事実を逆用することによつて、その法面全面に生育する草生の肥培法として至極省力的、経済的かつ持続的に容易に施行し得る手法を開発したものである。」(同二頁一七行ないし三頁八行)と明らかにしていることが認められる。

右の記載と前示当事者間に争いのない本願発明の要旨及び前掲甲号各証により認められる本願明細書中の図面(別紙第一図面)に基づき実施例によつて本願発明の構成とその効果を説明する部分の記載によれば、本願発明は、土工法面の地表部を流下する水に随伴して肥効成分が法面の上流から下流へ移動する現象を積極的に利用することを主眼とし、これに即して、前示当事者間に争いのない請求の原因二の特許請求の範囲に記載された構成、特に「土工法面(1)を平地であるとして算出した該法面全面の草生の施肥に必要な個数の、内部に充填された肥効成分(8)を持続的に自然に溶出させる構造とした肥料管(2)を概法面の法肩部(9)及びその近傍部に集中的に配設し、」との構成を採用し、もつて、法面全面の草生に自然に均等に肥効成分を行きわたらせ、従来の平均的画一的法面施肥法で見られた肥料の上下差現象を解消し、法面下流部からの肥効成分の流亡を可及的に防止して肥料の利用度を上げ、施肥労力及び管理の手間を著しく削減するという効果を生ずるものであることが認められる。

2 一方、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例は、その図面(別紙第二図面)に示すような「陶土其他硬質素材を以つて円錐若しくは角錐形状の容器体1を形成し、周壁に適宜個数の小孔2を穿設し、上方に防水素材による雨水受皿3を有し下方に嵌込用底筒4を有する蓋5を被蓋してなる化学肥料注入器の構造」の考案を開示した実用新案公報であつて、この考案の目的は、「傾斜地域を利用した果樹園、平坦地利用の果樹園、花壇、温室等に於て化学肥料の流失を防止し、肥料供給の適期と適量を得ること」(同号証一頁左欄九ないし一一行)にあり、その使用方法及び効果につき、「容器体1を夫夫の樹木に適当なる位置に埋め込み、化学肥料を格納し、上方より蓋を被蓋するときは、雨水を受皿3に溜水し、徒らに無益過剰の肥料を注入する必要がなく、所望の時に所望の量が流入するように適量の水を蓋を開放して注水することによつて小孔より土中に浸透し、然も土中深部まで肥土を醸成し、最大の肥料効果を挙げることが出来るから化学肥料を節約し、傾斜面の植樹に当つて、上下均等量の肥料を供給し得べく、肥料不足による虫害を一掃し、肥料過剰による無要の繁茂をなさしめて果実又は球根の生成に悪影響をさせる等の虞れがないから、果樹園、花壇等に著効を奏し得る点に実用上便益が大である。」(同一頁右欄二〇ないし三三行)、「本案を実施する場合には、雨水受皿附蓋を省略しても著大なる効果を奏し得るものである。」(同一頁右欄一八・一九行)と説明されていることが認められる。

右事実によれば、引用例には、化学肥料をそのまま施せば雨水等により肥効成分がほしいままに流失することになるので、これを防止するため、適宜個数の小孔を穿設した容器体に化学肥料を格納し、これを土中に埋め込み、「所望の時に所望の量が流入するように適量の水を蓋を開放して注水すること」によつて、肥効成分が小孔から土中に浸透し、土中深部まで肥土を醸成することができること、雨水受皿付蓋を省略しても、肥効成分は雨水等により小孔から土中に浸透するものであるから、化学肥料をそのまま施した場合に比し肥効成分が無益過剰に流出することが防止できること、この肥料収納容器の配設は、「夫夫の樹木に適当なる位置に埋め込」むものであつて、このような容器を用いず化学肥料をそのまま樹木等栽培植物の周辺に施す場合の施肥場所の選択と特段に異なる配設場所を考慮したものではないこと、傾斜地域を利用した果樹園等に用いれば上下均等量の肥料の供給ができるが、それは、前示のとおり、肥効成分の無益過剰な流出が避けられ、個々の樹木へ適量の肥効成分が与えられることの結果としてであることが開示されているものと認められる。

3 右1、2の事実によれば、引用例には、本願発明の眼目である土工法面の地表部を流下する水に随伴して肥効成分が法面の上流から下流へ移動する現象を積極的に利用して法面全面の草生に自然に均等に肥効成分を行きわたらせること、そのために土工法面を平地であるとして算出した法面全面の草生の施肥に必要な個数の肥料管を法面の法肩部及びその近傍部に集中的に配設することについては、何ら開示されておらず、また、これを示唆する記載はないことが明らかである。

審決は、相違点(2)につき、引用例のものも肥料の流出により傾斜地の上下で肥料成分の過不足が生じる欠点を解消することを意図したものであるから本願発明の技術的課題は引用例のものにおいても認識されていたこと、引用例の肥料収納容器を傾斜地の全面に均等に埋設すれば程度の問題はあるにせよ上方より下方が次第に肥料成分が多くなることは当然考えられること、さらに、田畑において肥料が流れやすく不足になりがちな箇所に予め多めに施肥することは日常経験するところであることの三点から、本願発明のような手段を採用することは格別の発明力を要しないで想到できる程度のものと判断している(審決の理由の要点4(二))が、前示認定の引用例の開示するところ、特に引用例のものは、本願発明がその課題の解決手段として意図するところとはむしろ逆に、傾斜地における肥効成分の流出を防止し土中深部に肥効成分を浸透させることを意図するものであり、また、肥料収納容器の配設位置についても、本願発明のそれとは異なり、樹木その他の栽培植物の各々の周辺の適当な位置に配設するものであることに鑑みれば、審決がその理由付けに用いた右の三点を考慮に入れても、また、成立に争いのない乙第一号証により認められる被告主張の周知技術を参酌しても、相違点(2)に係る本願発明の構成が引用例のものから容易に想到できるということは到底できない。本件証拠中他に右判断を覆えすに足りるものはなく、結局、相違点(2)についての審決の判断は誤りといわなければならない。

三 審判の右判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、原告主張のその余の審決取消事由について検討するまでもなく、審決は違法として取消を免れない。

四 よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

土工法面(1)を平地であるとして算出した該法面全面の草生の施肥に必要な個数の、内部に充填された肥効成分(8)を持続的に自然に溶出させる構造とした肥料管(2)を該法面の法肩部(9)及びその近傍部に集中的に配設し、該肥料管(2)から溶出する肥効成分を該法面(1)を自然流下する降雨などの水に随伴させて該法面(1)の下流へ移動させることを特徴とする土工法面全面の草生の能率的肥培法。

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